「自社サービスにもAI機能を入れたい」「ChatGPTのような仕組みを活用したい」というお問い合わせをいただくことがここ数年で増えています。
ただ、AIを導入する目的が曖昧なまま進めると、見た目は新しくても、現場や利用者にあまり使われない機能になってしまいます。
たとえば、WebサービスにAIチャット、画像認識、レコメンド、文章生成などを追加すること自体は可能です。
しかし、利用者が「何が便利になったのか分からない」と感じれば、AI機能はただの追加機能で終わります。
AI導入で考えるべきなのは、「どんなAIを使うか」よりも先に、「誰のどんな手間を減らすか」です。
セルバとリコー様の共同開発サービスである、保育・教育現場向けの写真共有サービス「そだちえ」における顔検索機能を例に、AIを体験改善に使う考え方と、導入前に整理しておきたいポイントを解説します。
AI導入で起きがちな誤解

AI導入でよくある失敗は、最初から「AIで何ができるか」から考えてしまうことです。

AIチャットを入れたい



画像認識を使いたい



自動化できるところを探したい
このような発想自体が悪いわけではありません。
ただ、機能から先行して考え始めると、利用者の行動や現場の不便が置き去りになりがちです。
機能を増やすだけでは使われない
Webサービスや業務システムでは、新機能を増やせば便利になるとは限りません。むしろ、使い方が分かりにくい機能が増えると、利用者は迷います。
管理画面にボタンが増えたり、検索条件が増えたり、説明文が長くなったりすると、かえって操作の負担が増えることは珍しくありません。
たとえば、社内向けのナレッジ検索にAIを入れたとしても、回答の根拠が分からなければ現場では使いにくいです。
問い合わせ対応にAIチャットを入れても、結局「担当者に確認してください」という回答ばかりなら、利用者の不満は残ります。
AIは、機能として目立つかどうかではなく、利用者の行動がどれだけ楽になるかで評価されます。
先に見るべきは利用者の手間
AI導入を考える前に見るべきなのは、利用者がどこで時間を使っているかです。
たとえば、そだちえのような写真共有サービスなら、保護者は大量の写真の中から自分の子どもが写っている写真を探します。
園や学校のイベント写真では、同じような場面の写真が何十枚、何百枚と並ぶこともあります。
このときの不便は、「写真が見られないこと」ではありません。
写真は見られるが、探すのに時間がかかることです。
同じように、業務システムでも次のような不便が起きます。
- 必要な情報を探すために複数の画面を行き来している
- 毎回同じような文章を手作業で作っている
- 条件に合うデータを人が目視で確認している
- 問い合わせ内容を担当者が毎回分類している
- 登録情報の表記ゆれを手作業で直している
このような作業は、現場では「少し面倒だけど仕方ない」と見過ごされがちです。
しかし、毎日・毎週発生しているなら、AIで改善できる余地があります。
そだちえの「顔検索機能」が改善する体験


そだちえのような写真共有サービスでは、写真の枚数が増えるほど、利用者にとって探す負担が大きくなります。
特に保育園、幼稚園、学校、習い事、イベントなどでは、同じ制服、同じ背景、同じ時間帯の写真が並ぶこともあります。
保護者が見たいのは、写真一覧そのものではありません。
自分の子どもが写っている写真を見つけ、購入したり保存したりすることです。
探す時間を短くする
顔検索機能があると、利用者は写真を1枚ずつ確認する手間を減らせます。
もちろん、顔検索の精度が常に完璧とは限りません。
横顔、後ろ姿、マスク、帽子、暗い場所、集合写真など、判別が難しいケースもあります。
それでも、最初から全写真を目視で探すより、候補を絞り込めるだけで体験は変わります。
たとえば、次のような変化です。
- 写真一覧を最初から最後まで見る必要が減る
- 候補写真から確認できるため、探す時間が短くなる
- 見落としへの不安が減る
- スマートフォンでも写真を探しやすくなる
AIがすべてを代わりに判断するのではなく、利用者が目的の写真にたどり着くまでの距離を短くする。
この考え方は、他のWebサービスや業務システムにも応用できます。
利用者の迷いを減らす
顔検索機能の価値は、時間短縮だけではありません。「どこを見ればいいか分からない」という迷いを減らせる点にもあります。
写真が多いサービスでは、利用者が途中で探すのをやめてしまうことがあります。
忙しい保護者であれば、通勤中や家事の合間にスマートフォンで確認するのが主流です。その短い時間で目的の写真が見つからなければ、後回しになり、そのまま忘れられることもあります。
AIが候補を出せば、利用者は「まずここから見ればよい」と判断できます。
この小さな違いが、サービス全体の使いやすさに影響します。
ここで大事なのは、AIが主役になるのではなく、利用者の行動を支える裏側の仕組みになることです。
AI活用は不便から考える


AI活用を検討する企業からは、「自社でも何かAIを使えないか」という相談をいただくことが多いです。
ただ、最初に決めるべきなのは、AIの種類ではありません。
まずは、利用者や社内担当者がどの場面で面倒を感じているかを洗い出すことです。
どの作業を楽にするか
AIを入れる候補は、派手な機能だけではありません。
むしろ、日々の小さな手間を減らす使い方の方が、現場に定着しやすいです。
たとえば、Webサービスや業務システムでは、次のような活用法があります。
- 写真や画像から対象を探しやすくする
- 会員の登録情報からおすすめ内容を出す
- 問い合わせ内容を分類し、担当部署に振り分ける
- 社内資料から必要な情報を探しやすくする
- 入力された文章を整え、確認しやすい形にする
- 求人、案件、商品、施設などのマッチングを補助する
このとき、「AIで自動化できるか」だけで判断すると危険です。
自動化しても、確認作業が増えたり、例外対応が多すぎたりすると、現場の負担はあまり減りません。
見るべきなのは、次のような点です。
- その作業は頻繁に発生しているか
- 人が判断する前に候補を絞れるか
- 間違えた場合の影響は大きいか
- 最終判断を誰が行うか
- AIの結果を修正・確認する画面が必要か
AIを入れるなら、完全自動化よりも「人が判断しやすくなる状態」を先に目指す方が現実的です。
AIに任せる範囲を決める
AI導入では、任せる範囲を広げすぎると運用が難しくなります。
たとえば、そだちえの顔検索なら「本人らしい写真を候補として出す」ことはできますが、購入すべき写真をAIが決めるわけではありません。最終的に見る・選ぶ・判断するのは利用者です。
問い合わせ対応でも同じです。
AIが回答候補を出すことはできますが、クレーム、契約、個人情報、法的判断が関わる内容まで自動返信にするとリスクが高くなります。
AIに任せる範囲は、次の3段階で考えると整理しやすいです。
- 補助:候補を出す、分類する、検索しやすくする
- 半自動:AIが下書きし、人が確認して実行する
- 自動:条件を満たす場合のみ、人を介さず処理する
最初から自動化を目指すより、補助や半自動から始めた方が、現場の反応を見ながら改善できます。
AI導入支援やAI活用支援を検討する場合も、「どのAIを使うか」ではなく、「どの範囲までAIに任せるべきか」を一緒に整理できるかを確認すると、相談の質が変わります。
自社のWebサービスや業務システムにAIを組み込む進め方を整理したい場合は、AI導入支援のサービスページも判断材料になります。
企画、PoC、既存システムとの連携、補助金活用など、どこから外部に相談するかを考える材料として確認できます。
AI導入前に確認すること


AI導入は、アイデアだけで進めると後から詰まりやすいです。
特に、顔検索や画像認識のように個人情報や写真データを扱う場合は、機能の便利さだけでは判断できません。
ここでは、導入前に確認しておきたい点を整理します。
データの扱い
AIはデータをもとに動きます。
そのため、どのデータを使うのか、どこに保存するのか、誰が見られるのかを決めておく必要があります。
顔検索のような機能では、写真データや顔に関する情報を扱います。
保育・教育・医療・人材・会員制サービスなどでは、利用者が不安を感じやすい領域です。
導入前に確認したいのは、次のような点です。
- 利用者にどのような説明をするか
- 同意取得が必要な範囲はどこか
- データを外部サービスに送るのか
- 保存期間をどうするか
- 削除依頼があった場合に対応できるか
- 管理画面で誰が閲覧・操作できるか
便利な機能であっても、データの扱いが曖昧だと導入後に不安や問い合わせが増えます。
精度と運用ルール
どのAIを使っても、常に100%正しい結果を出せるわけではありません。
顔検索なら、似ている人を候補に出すことがあります。
文章生成なら、もっともらしいが誤った内容を出すことがあります。
マッチングなら、条件に合っているように見えて、実際には利用者の希望とずれることがあります。
そのため、導入前に「どの程度の誤差を許容するか」を決めておく必要があります。
たとえば、顔検索であれば「候補表示として使う」のか、「本人判定として使う」のかでリスクが変わります。
社内資料検索であれば「参考情報として表示する」のか、「正式回答として扱う」のかで運用ルールが変わります。
AIの精度だけでなく、間違えたときに人がどう確認し、どう直すかまで設計しておく必要があります。
既存システムとの連携
既存のWebサービスや業務システムにAIを組み込む場合、AI単体の機能だけでは完結しません。
たとえば、写真共有サービスに顔検索を入れるなら、写真のアップロード、保存、公開範囲、閲覧権限、購入導線、管理画面などとの関係を考える必要があります。
社内業務システムでも、会員管理、顧客管理、商品管理、予約管理、問い合わせ管理など、既存のデータベースや画面と連携する場面が出てきます。
ここを軽く見ると、次のような問題が起きます。
- AI機能だけ別画面になり、現場が使いにくい
- 既存データの形式がバラバラでAIに使いにくい
- 管理画面に確認・修正の導線がない
- 権限管理が不十分で、見えてはいけない情報が表示される
- 導入後の保守担当が決まっていない
AIを導入するなら、AIの精度だけでなく、既存システムの構造や運用まで含めて設計する必要があります。
AIを導入する判断軸


AI導入は、必ず外部に依頼しなければならないものではありません。
社内で試せる範囲もありますし、既存のAIツールを使えば十分なケースもあります。
一方で、既存システムへの組み込みや、個人情報を扱うサービス、事業としてのAI活用を考える場合は、自社だけで判断しづらい場面が増えます。
自社だけで進められるケース
次のような場合は、まず社内で小さく試す方法がおすすめです。
- 社内文書の下書きや要約に使いたい
- 議事録の整理を効率化したい
- 営業メールや提案文のたたき台を作りたい
- 社内メンバーだけで使う簡易的な業務改善を試したい
- 既存システムと連携しない範囲で検証したい
この段階では、高額な開発を前提にしなくても構いません。
まずは、現場が実際に使うか、どの作業に向いているかを確認する方が現実的です。
ただし、社内利用であっても、顧客情報、契約情報、個人情報、機密情報を扱う場合は注意が必要です。
外部のAIサービスに入力してよい情報かどうかは、社内ルールを決めてから運用する必要があります。
外部に相談した方がよいケース
外部に相談した方がよいのは、AIそのものよりも、システム全体や事業設計が関わる場合です。
たとえば、次のようなケースです。
- 既存のWebシステムにAIを組み込みたい
- 会員サイトやポータルサイトにAI検索を追加したい
- 顔検索、画像検索、レコメンドなどをサービス機能として提供したい
- AIを使った新規事業を企画段階から検討したい
- 個人情報や画像データを扱うため、セキュリティ面が不安
- 補助金を活用できるかも含めて検討したい
- 社内にAI導入を進める担当者はいるが、技術判断に不安がある
このような場合は、AIツールの選定だけでなく、画面設計、データ設計、権限管理、運用フロー、保守体制まで見ておく必要があります。
どの会社のAI導入支援サービスを使うか決める際は、AIの説明が分かりやすいかだけでなく、Webシステムや業務システムの開発経験があるかも確認したいところです。
既存システムとの連携が必要な場合、AIの知識だけでは判断できない部分が出てくるためです。
セルバのAI導入支援は、AIの使い方の相談だけでなく、AIを組み込んだWebシステム開発や、AIを使った自社開発の進め方まで相談できるサービスです。
創業以来20年以上Webシステム開発を行ってきた会社のため、既存システムとの連携や運用を含めて検討したい場合の比較材料になります。
また、補助金を使った導入を検討している場合は、対象になる可能性や進め方を早い段階で確認しておくと、開発範囲やスケジュールを組みやすくなります。
補助金は条件や時期によって使える制度が変わるため、最初から前提にするのではなく、選択肢の一つとして確認するのが現実的です。
まとめ
- AI導入は、機能を増やすことではなく、利用者や現場の手間を減らす視点から考える
- そだちえの顔検索機能のように、探す時間や迷いを減らす使い方は、体験改善として分かりやすい
- 導入前には、データの扱い、精度、運用ルール、既存システムとの連携を整理しておく
AIを導入するかどうかを考えるときは、「AIを使っているように見えるか」ではなく、「使う人の行動がどれだけ楽になるか」を基準にした方が判断しやすくなります。
すぐに大きな開発を始める必要はありません。まずは、自社サービスや業務の中で、利用者や現場が何に時間を取られているのかを洗い出すところから始めると、AIを入れるべき場所が見えてきます。
