口コミを書く人の心理|信頼性を作るマーケティング戦略

現在、多くの人が商品やサービスを探す際にインターネットを利用しています。
なかでも「口コミ」は、実際の利用者によるリアルな体験談であり、企業の宣伝やインフルエンサーの発信よりも信頼して参考にする人も多くありません。
そのため、企業や店舗が自社の商品・サービスを選んでもらうためには、口コミを増やし、信頼性の高い評価を積み重ねることが重要です。
本記事では、「なぜ人は口コミを書くのか」という心理的な背景を紐解きながら、自然に口コミを増やすための具体的な仕組みづくりについて解説します。
口コミが消費者に与える影響
そもそも「口コミ」は、どれほど消費者の購買行動に影響を与えているのでしょうか。
ここでは、口コミが消費者に与える影響をデータを示し、解説していきます。




「商品サービス購入時に重視する情報源」に関するアンケートを見ると、口コミサイトSNS、Webサイトなど、インターネット上の情報を参考にする人が非常に多いことがわかります。
「口コミ等を参考にしている度合い」のアンケートでは、95%以上の消費者が購入時に口コミを参考にしており、口コミが意思決定において重要な役割を果たしていることが読み取れます。
口コミを書く人の心理
口コミは、消費者が商品・サービスの購入を行う上で重要な判断要素であるため、投稿数を増やすことで、消費者に対して信頼性を高め、購買行動を後押しする環境をつくることができます。
そのため、口コミを増やすためには、投稿する人の心理や動機を理解することが重要です。
ここでは、実際に口コミを書く人がどのような気持ちで投稿しているのか、その心理を読み解いていきます。


上のでは、「口コミを投稿した理由」に関するアンケートであり、「満足したとき」が55.1%、「不満を感じたとき」が44.4%と回答されており、感情が動いた経験をきっかけとして生まれていることがわかります。
人は、強い印象を受けた体験ほど、人は「他者に共有したい」という欲求を抱きます。
つまり、満足・不満といった強い感情が、口コミ投稿を生み出す最大の要因になります。
口コミにおける経済学・心理学
口コミは、経済学や心理学の観点から見ても、人の意思決定や購買行動に大きな影響を与える要因として位置づけられています。
以下の3つの経済・心理学的効果が口コミと密接にかかわっています。
| 現象名 | 内容 | 口コミとの関係 |
|---|---|---|
| バンドワゴン効果 | 多くの人が、所有していることで自分も同じ行動を取りたくなる心理 | 口コミ数が多く、みんなが持っているからほしくなる心理 |
| 社会的証明 | 他人や多数の意見・行動を判断材料にする心理 | 他人や世間のレビューを信頼し、判断基準に加える心理 |
| ハロー効果 | 特徴的な印象が、全体の評価にまで影響する心理 | 一部の好印象・高評価のレビューが、商品全体の期待を高める |
これらの効果・証明は、口コミが単なる情報の一つではなく、人の心理を動かし、行動を変化させる強力な要素であることを示しています。
このような理論を踏まえることで、「どのように人の感情や行動が動くのか」を分析し、より効果的に口コミを生み出す体験設計や信頼形成の戦略を考えることができます。
口コミを増やすポイント


感情が動く設計
口コミを書く人の最大の動機は、「感情」にあります。
単に質の高い商品やサービスを提供するだけでは不十分であり、喜び・感動・驚き・共感といった感情を動かす「体験設計」が欠かせません。
また、感情を動かす要因は、商品やサービスそのものだけではありません。
丁寧な接客や問い合わせに対する迅速な対応など、提供する商品以外の体験も、ユーザーにとっては強く印象に残る「感情が動くきっかけ」になり得ます。
「良かった」や「助かった」と感じる顧客の心が動く”仕掛け”をデザインすることが重要です。
投稿のハードルを下げる
どんなに良い体験をしても、「口コミの書き方がわからない」「投稿が面倒」と感じられてしまえば、口コミを増やす貴重な機会を逃してしまいます。
そこで重要なのが、投稿のハードルを下げる仕組みです。
たとえば、メニューや商品のタグ、レシート、クーポンなどにQRコードを記載しておくことで、その場ですぐに投稿できる導線を作ることができます。
また、接客時にさりげなく依頼することや、利用後のメール・公式LINEでの案内も効果的です。
こうした声かけは、消費者の「受けた恩を返したくなる」という返報性の原理を刺激し、「良い体験だったから口コミでお返ししたい」という心理を自然に引き出すことができます。
特典を用意する
株式会社ラクスの「口コミを投稿した理由」に関するアンケートでは、36.4%の人が「特典獲得条件だったとき」と回答しています。
割引券・クーポン・プレゼントなどの実利的なメリットを提示することで、消費者の投稿意欲を高めることができます。
ただし、プラットフォームによっては報酬を条件とした口コミ投稿を禁止している場合もあります。
特典を設ける際は、必ず利用規約やガイドラインを確認し、違反にならない形で実施することが重要です。
ネガティブな口コミの対処法
口コミは、感情を刺激されたときに投稿される傾向があります。
その中には、喜びや感動といったポジティブな理由だけでなく、怒りや失望などのネガティブな感情から投稿されるケースも少なくありません。
こうした口コミは、他の消費者に不安や不信感を与える可能性があるため、慎重な対応が必要です。


出展元:株式会社ラクス『「ネットショッピングにおける購買心理と顧客対応が与える影響」に関する調査』


株式会社ラクスの『問い合わせへの対応の速さ・丁寧さに関するアンケート』によると、「とても重要である(46.5%)」と「やや重要である(43.9%)」と回答した人が9割以上を占めていることがわかります。
また、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの『口コミの信ぴょう性・信頼性の判断基準に関するアンケート』では、
31.5%の人が「口コミの言葉遣いや表現」を信頼性の判断基準にしていると回答しています。
この結果は、口コミの信頼性に関する調査であり、店舗の対応そのものを問うものではありません。
しかし、消費者が口コミを読む際、投稿者の言葉遣いや表現を通して「誠実さ」を感じ取っていることが分かります。
こうしたことから、消費者は「対応の速さ」と「丁寧さ」の両方を重視しており、特にネガティブな口コミへの対応においては、この2点が極めて重要になります。
ネガティブな口コミでも、迅速かつ丁寧な対応を行うことで、「真摯な企業」として評価と信頼性を高める可能性があります。
口コミに関する事例
ここでは、データや心理的な背景だけではなく、実際の企業事例を通して、口コミの重要性を見ていきます。
共有体験の江崎グリコ(ポッキー)


ポッキーを販売する江崎グリコ株式会社は、
「共有体験」をうまく活用した口コミ戦略で大きな成功を収めました。
11月11日は、数字の「1」が4本並ぶ形がポッキーのスティックのように見えることから、「ポッキー&プリッツの日」として同社が制定。
この日に合わせて、SNS上で大規模なキャンペーンを展開しました。
画像引用元:江崎グリコ株式会社『ポッキー&プリッツの日』
キャンペーン内容は、Twitter(現X)上で「ポッキー」を含む投稿数を競い、「24時間で最もツイートされたブランド」としてギネス世界記録を目指すというものでした。
この試みは2012年・2013年の2年連続で実施され、いずれも世界新記録を達成しました。
2013年には3,710,044件ものツイートが投稿され、同年1月1日の「あけおめ」(約2,235,000件)や、2月14日の「バレンタイン」(約1,509,000件)を大きく上回る結果となり、圧倒的な話題性を獲得しました。
江崎グリコはこのようなキャンペーンを通じて、「みんなで参加したくなる体験」を提供し、消費者の共感・参加意欲・楽しさといった感情を刺激する設計に優れていました。
口コミが自然に拡散し、単なる企業発信を超えた「共有体験型マーケティング」の成功例といえます。
誠実な対応のまるか食品(ペヤング)


国民的人気を誇る「ペヤング」を展開するまるか食品株式会社は、
2014年に発生した異物混入騒動への誠実な対応で大きな話題を呼びました。
画像引用元:まるか食品株式会社『ペヤング ソースやきそば』
2014年12月、あるユーザーが「ペヤングの麺にゴキブリが混入していた」と画像付きでSNSに投稿しました。
当初、まるか食品は「製造工程での混入は考えにくい」という強気なコメントしていまいたが、外部調査で「加熱の痕跡」が確認され、製造過程での混入を否定できないと認識を変えることになりました。
こうした、異物混入と初動対応の不十分さにより企業への批判が殺到しました。
しかし同社は、加熱の痕跡の発表当日に、同製造ラインの約4万6千食の自主回収と製造停止を即決し、9日後には全工場の生産停止と販売中止を発表しました。
その後は以下のような対応策がとられました。
- 生産設備の入れ替え
- 生産・運搬レーンでのセンサー導入
- 品質管理体制の強化
- 本社工場の壁・床の修繕と抗菌仕様への変更
生産停止は約半年間に及びましたが、同社は人員整理を一切行わず、従業員へのボーナスを全額支給。
生産停止によって発生した大量の在庫を取引先から買い取る対応や、社長自らが小売店を訪問して謝罪を行うなど、消費者だけでなく、取引先や従業員を含むすべての関係者に誠実な対応を行いました。
こうした対応と誠実な姿勢が、消費者・関係者への信頼回復につながり、2015年6月に販売再開後、予想の3倍にあたる注文が殺到しました。
まるか食品の対応はネガティブな口コミを、誠実な対応によって信頼を取り戻した象徴的な事例です。
まとめ
口コミは、単なる情報ではなく、「企業の信頼性を映す広告」です。
商品やサービスの品質の高さはもちろん、対応の丁寧さや誠実な姿勢といった、商品を含めた消費体験全体から生まれる感情が口コミを生み出します。
口コミは、顧客の声であり、信頼の証でもある重要な指標です。
「どんな体験が口コミを生むのか」を分析し、顧客とのつながりを重視した戦略を立てることが求められます。

