マクドナルドとモスバーガーを徹底比較 | それぞれの強みと課題点

日本のファストフード業界を代表とする「マクドナルド」と「モスバーガー」。
どちらも高い知名度と人気を誇るハンバーガチェーンですが、そのアプローチは大きく異なります。
本記事では、両社のマーケティング手法を比較し、売上や収益構造、そして抱える課題点までを解説します。
マクドナルドのマーケティング手法


マクドナルドは1955年にアメリカで創業し、日本では1971年に銀座に1号店をオープンしました。
現在では日本国内におよそ3,000店舗を展開し、業界最大手としての地位を確立しています。
この地位を確立してきた背景には、時代の変化に応じて柔軟に戦略を見直してきた姿勢があります。
ここでは、マクドナルドのマーケティング手法について詳しく解説していきます。
デジタル戦略
利便性の高いアプリ
現代のマクドナルドで特徴的なマーケティング手法は、アプリを活用した利便性の高さです。
公式アプリの国内月間アクティブユーザー数は約2,600万1に達し、日本人口の約20%が利用している計算になります。
飲食チェーンの中でも群を抜いた規模であり、同業他社と比べても圧倒的な存在感を示しています。
このアプリは、商品選択から決済までをアプリ内で完結でき、レジに並ばず受け取れるため、快適で効率的な顧客体験を実現しています。
デリバリーやドライブスルーにも対応しており、利用シーンを問わないアプリの利便性を提供しています。
画面デザイン
画面デザインも普及の大きな要因です。
他の飲食チェーンアプリでは画面の情報量が多く操作が複雑なことが多いですが、マクドナルドのアプリはシンプルで視認性の高いデザインを採用し、会員登録をしなくてもメニュー閲覧ができるなど、利用のハードルを下げる工夫も行われています。
加えて、アプリ内でクーポンを常時配布し、「お得に注文できる」という明確な理由を提示することで、利用の定着化につながりました。
こうした「便利さ」と「お得さ」を両立させた顧客体験が、マクドナルドアプリの爆発的な普及と高いアクティブ率を支え、競合との差別化につながっています。
プロモーション(広告戦略)
マクドナルドは、プロモーションの強さも際立っており、話題性の高い商品を展開し、短期的な集客と長期的なブランド定着を両立させています。
特に季節限定商品である「月見バーガー」「グラコロ」「てりたま」の3つは、圧倒的な人気を誇ります。
いずれも1990年代から毎年登場しており、発売時期が近づくと自然にSNSで話題となるほど、消費者にとっては「季節の行事」として定着しています。
人気キャラクターとのコラボも頻繁に行っています。
子ども向け商品のハッピーセットでは、ちいかわ・サンリオ・ポケモンなどとのコラボおもちゃを展開し、そのたびに大きな話題を呼び込みました。
ハッピーセット以外でも、「チキンタツタ」と「名探偵コナン」のコラボや、「エヴァンゲリオン」とのフィギュア企画など、限定メニューやグッズを組み合わせたキャンペーンも実施しています。
ファミリー層に加え、アニメファンや若年層まで幅広いターゲットを取り込むことに成功しています。
価格設定
マクドナルドは、以前から低価格なハンバーガーで市場をリードしてきました。
特に、1990年後半から2000年代初頭にかけては、「ハンバーガー」が59円、「チーズバーガー」が79円で提供されていた時期もあり、学生や若年層を中心に爆発的な支持を獲得しました。
しかし現在では、原材料費や人件費の上昇により、当時のような極端な低価格での提供は難しくなっており、2025年9月時点で「ハンバーガー」は190円、「チーズバーガー」は220円と大幅な値上げがされています。
加えて、全国約3,000店舗のうち、580店舗が「特定店舗」に指定され、これらでは通常のメニュー価格より+10〜50円高く設定されており、「安さ」で他と差別化するのは難しい状況になっています。
とはいえ、現在でも「ハンバーガー」や「マックチキン(旧チキンクリスプ)」は190円で販売されており、100円台の低価格メニューも存在しています。
満足感を重視した「サムライマック」や、パティを倍にした「倍マック」など、高価格帯のプレミアム商品も積極的に展開し、幅広い顧客層に対応できる商品戦略を打ち出しています。
かつてのマクドナルドは徹底した「安さ」で市場を独占していましたが、原材料費や人件費の上昇により、当時のような価格設定は難しくなっています。
そうした環境変化の中で、デジタル化や人気キャラクターとのコラボレーション、価格帯の多層化といった新たな戦略を打ち出してきました。
消費者に気軽で便利な顧客体験を提供し、業界最大手としての地位を維持しながら成長を続けています。
モスバーガーのマーケティング手法


モスバーガーは1972年に東京・成増(なります)で誕生した、日本発祥のハンバーガーチェーンです。
現在では、日本国内に1,300店舗を展開し、マクドナルドに次ぐ規模を誇ります。
マクドナルドとは大きく異なり、国産食材や商品戦略によって、独自の地位を確立してきました。
ここでは、そんなモスバーガーのマーケティング手法を詳しく解説していきます。
食材へのこだわり
モスバーガーで提供される生野菜は、すべて国産のものを使用しています。
同じ野菜でも季節によって生産者や産地が変わり、公式サイトの「モスバーガー今月の産地情報2」から確認することができます。
「誰がどこで育てた野菜か」を公開する仕組みは、ファストフード業界の中では非常に珍しい取り組みです。
さらに、農薬や化学肥料の使用を減らすために、取引を行っている農家と協力し、現在の基準から5割以上の削減を目標に掲げています。
このように、モスバーガーは単なる「安さ」ではなく、「安心と安全」を最優先にした商材調達を徹底することで、消費者に大きな安心感を与えています。
品質の高さ
モスバーガーの品質の高さを象徴する取り組みが、「アフターオーダー方式」と呼ばれる提供方法です。
注文を受けてから一つひとつ調理を行うため、常に出来立てで提供し、パンのふんわり感や野菜のシャキシャキ感、ソースの温かさを楽しむことができます。
一般的にファストフード業界では、「早さ」が重視されますが、モスバーガーは品質を優先し、この取り組みが競合との差別化につながっています。
品質へのこだわりは顧客満足度の高さとしても表れています。
日本生産性本部が実施した2025年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)第1回調査3では、顧客満足スコアが飲食業界18社の中で2位にランクインしており、外部調査において高い評価を獲得しています。
商品戦略
モスバーガーは国産ハンバーガーチェーンとして、日本人の食文化や嗜好に合わせた商品開発を続けてきました。
創業当時の1972年、日本ではハンバーガー自体が珍しく、日本人の味覚に合った商品を作る必要がありました。
そこで、鶏ガラ・豚骨ベースのミートソースを使用した「モスバーガー」を生み出し、創業から現在まで看板商品となっています。
また、1973年に開発された「テリヤキバーガー」は、日本人が好むしょうゆベースの甘辛いソースを使った商品で、当時大きな話題となりました。
マクドナルドを含む多くのチェーンで「テリヤキ」が商品化されていますが、その原点はモスバーガーにあります。
パンのパンズをレタスにした「モスの菜摘(なつみ)」も販売しています。
「菜摘テリヤキチキン」は、通常のテリヤキバーガーが303kcal・炭水化物32.4gであるのに対し、菜摘は186kcal・炭水化物7.7gと、低カロリー・低糖質を実現しています。
このように、日本人の食文化に寄り添った商品や、低カロリー・低糖質といった健康志向メニューを展開することで、他のファストフード店では取り込みにくい顧客層を獲得することに成功しています。
国産食材へのこだわり、高い品質と顧客満足度、日本人の食文化に寄り添った商品開発によって、独自のブランドを築いてきました。
両社の規模と収益構造を比較


マクドナルドとモスバーガーは、日本のファストフード市場でいずれも存在感を放っていますが、決算書をみると規模や収益構造に大きな違いがあります。
ここでは、両社の規模を比較しながら、それぞれの経営の特徴や収益構造を解説していきます。
比較項目 | マクドナルド | モスバーガー |
---|---|---|
国内店舗数 | 2,988店 | 1,314店 |
売上高 | 約4,054億 | 約766億 |
営業利益 | 約480億円 | 約64億円 |
営業利益率 | 約11.9% | 約8.3% |
フランチャイズ比率 | 約74% | 約97% |
主な収益減 | 直営店売上、FCロイヤルティ、不動産収入 | FCロイヤルティ、食材・資材供給収入 |
モスフードサービス 2025年3月期 決算短信
モスバーガー 店舗数データ(公式)
フランチャイズ
フランチャイズとは、本部がブランドやノウハウを提供し、加盟店オーナーが店舗を運営する仕組みです。
本部はロイヤルティ(手数料)と、食材や資材を本部から仕入れることで得られる収入が収益になります。
マクドナルド
2024年12月期の売上高は4,054億円、営業利益は480億円に達し、営業利益率は約11.9%と、外食産業の中でも高い水準を維持しています。
国内店舗数は2,988店で、そのうち26%が直営店、74%がフランチャイズになっています。
本部は、直営店の売上、フランチャイズからのロイヤルティ(手数料)収入に加え、フランチャイズ店舗からの不動産収入を得ることで、大きな利益と安定性を築いています。
世界中に展開しているマクドナルドは、食材や資材の大量調達によるコスト削減や効率的な物流体制を整えています。こうした仕組みにより、原材料費や人件費の高騰が続く中でも一定の利益率を可能にしています。
モスバーガー
一方、モスフードサービスの2025年3月期における国内モスバーガー事業の売上高は766億円、営業利益は64億円、営業利益率は約8.3% で、マクドナルドと比べると大きな差があります。
国内の店舗数は約1,300で、直営店はわずか2~3%、残りのほとんどがフランチャイズ店です。
フランチャイズの比率が高いと、本部が新規出店や店舗運営のコストを負担せずに規模を拡大できるという利点がある一方で、店舗の売上は基本的にオーナーのものになります。
本部に入るのは、ブランド使用料(ロイヤルティ)や食材・資材の仕入れ分だけになり、実際にお客さんが払った金額に比べて、本部の売上は小さく見えてしまうのです。
フランチャイズ店が大半を占めているため、本部の収益はロイヤルティと食材・資材供給収入が中心であり、マクドナルドのように直営店売上や不動産収入に依存していない点が特徴です。
こうしたことから、マクドナルドは効率と収益性を重視しているのに対し、モスバーガーは品質重視で安定的な経営を優先しているといえます。
両社の違いは単なる規模差ではなく、「どのように利益を確保しているか」という収益構造の差にも現れています。
両社の課題点


マクドナルドは規模と利便性で、モスバーガーは品質や安心感で日本のファストフード市場をリードしてきました。
しかし、どちらのブランドにも大きな課題が存在しています。
ここでは、こうした課題点を比較しながら、両社の経営スタイルの違いをより明確にしていきます。
マクドナルドの課題
マクドナルドのは国内で圧倒的な規模を誇りますがいくつかの課題を抱えています。
その中で最大の課題が「価格の上昇」です。
かつてはハンバーガーが100円を下回る価格で提供されていた時期もあり、「マクドナルド=安い」という認識が定着していました。
しかし近年では、原材料費や人件費の高騰を背景に、複数回にわたって値上げを行っています。
国内最大手ということもあり、価格改定のたびに大きく取り上げられ、値上げのイメージが強調されやすい傾向があります。
値上げにより、モスバーガーを含む他のハンバーガーチェーンと価格差が小さくなり、「安さ」で優位性を維持することが難しくなっています。
もう一つの課題は「ジャンクで高カロリーなイメージ」です。
特に、フライドポテト(Sサイズ)はモスバーガーに比べて1食あたり50kcal以上高く、健康志向の消費者に利用を敬遠されやすい傾向があります。
マクドナルドのポテトは細い形状をしており、表面積が大きく油を吸いやすいためカロリーが高くなってしまいます。
低カロリーの商品ラインが限られており、「マクドナルド=ジャンクで高カロリー」というイメージを払拭できておらず、健康志向層を取り込む上での大きな課題となっています。
モスバーガーの課題
モスバーガーは「できたて」を提供するために注文を受けてから調理を行うアフターオーダー方式を採用しています。
この方式は品質を高める一方で、提供時間が長くなるという弱点を抱えています。
さらに、看板商品のモスバーガーは470円と、マクドナルドの定番商品よりも高めに設定されています。
そのため、価格の高さと提供時間の長さが重なり、日常的に利用するにはハードルが高くなってしまいます。
加えて、デジタル化の遅れも弱点として残っています。
モスでもモバイルオーダーやデリバリーを導入していますが、マクドナルドに比べて対応店舗は少なく、特に郊外や地方では利用できないケースが目立ちます。
また、マクドナルドのように常時多数のクーポンを提供しているわけではなく、配信数が限られているうえに宣伝規模も小さいため、アプリの利用メリットが十分に伝わっていません。
ユーザーにとって「アプリを使う理由」が明確にならず、利用定着につながっていません。
それぞれの課題を比較
マクドナルドは「安さ」を強みに多くの支持を集めてきましたが、度重なる値上げでその印象は変わりつつあります。
低カロリー商品の選択肢も限られており、健康志向の消費者層を十分に取り込めていないのが現状です。
対してモスバーガーは「安心・品質」で根強いファンを獲得しているものの、提供時間の遅さや、高い価格設定、デジタル化の遅れもあり、日常的な利用はハードルが高いという声が少なくありません。
まとめ
マクドナルドは長年「安さ」で人気を集めてきましたが、度重なる値上げによってその強みは薄れつつあります。
しかし、デジタル化による利便性、巧みなプロモーション戦略、幅広い価格帯の商品展開により、多くの顧客を引きつけています。
一方、モスバーガーは提供時間の長さやデジタル化の遅れといった弱点を抱えていますが、国産食材へのこだわりや日本人の食文化を取り入れた商品開発、低カロリーメニューの展開を打ち出すことで、独自のポジションを確立しています。
両社が異なる強みと課題に挑み続けることで、日本のファストフード市場は、これからも進化を続けていくでしょう。
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- 日本マクドナルド株式会社 事業内容 https://www.mcdonalds.co.jp/recruit/staff_recruiting/corporate/business/ ↩︎
- モスバーガー 今月の産地情報 https://www.mos.jp/omoi/quality/vegetables/farm_info/ ↩︎
- 2025年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)第1回調査 https://www.jpc-net.jp/research/detail/007390.html ↩︎