看護師・薬剤師・介護士・保育士を大手人材会社はどうやって集めている?決算・IR資料から10社を調べました

こんにちは。セルバの中山です。
看護師、薬剤師、介護士、保育士。どれも慢性的な人手不足が続いている仕事です。こうした資格職の転職を支援する人材会社にとっては、求人を集めるよりも、働きたい人(求職者)を集めることのほうが難しい分野でもあります。
では、大手の人材会社は、看護師や介護士をどうやって集めているのか。テレビCMなのか、Web広告なのか、それとも別の方法なのか。気になったので、医療・介護・保育の人材サービスを手がける10社の決算短信・決算説明資料・有価証券報告書・中期経営計画・適時開示を読んで調べました。あわせて、厚生労働省の統計や制度も確認しています。報道やアナリストの推測は入れていません。
対象にしたのは次の10社です(直近決算の期間は会社ごとに違います)。
- 看護・介護・保育の人材紹介:エス・エム・エス(2175)、メドレー(4480)、クイック(4318)、ディップ(2379)
- 医師・薬剤師:エムスリー(2413)、クオールホールディングス(3034)、日本調剤(2025年12月に上場廃止。上場時の最後の資料を使用)
- 自社施設や派遣も持つ総合型:ライク(2462)、ウィルグループ(6089)、ヒューマンホールディングス(2415)
先に結論を言うと、こうなっていました。
- 一番強いのは「自前の会員基盤」:エムスリーは医師会員35万人以上のm3.comが入口になるため、外部への広告宣伝費がほとんどかからない。メドレーのジョブメドレーは従事者会員333万人(+20%)
- 集め方は会社ごとにバラバラ:テレビCM、学生への学内セミナー、SNS・インフルエンサー、資格取得スクール、外国人材、M&Aなど、各社が違う入口を持っている
- 看護師・薬剤師の紹介は苦戦、介護・保育は伸びている:厚労省の統計でも、民間の有料職業紹介による就職件数は看護師が-10.3%、介護は+29.1%
- 「お金で釣る」集客はもう使えない:求職者に支払っていた勤続支援金などは、法令改正への対応でやめる流れ。代わりにAI、スカウト、成果報酬型のサービスに力を入れている
まず全体像:4つの職種の人手不足と、人材紹介の市場
厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」で、職業別の有効求人倍率(常用、パート含む)を見ると、全体が1.06倍なのに対して、次のようになっています。
- 介護サービス職業従事者:3.89倍
- 保健師、助産師、看護師:2.00倍
- 医師、歯科医師、獣医師、薬剤師:1.70倍
- 社会福祉専門職業従事者(保育士を含む):2.50倍
特に介護は、全体の3.7倍ほどの求人倍率です。
一方で、民間の有料職業紹介でどれだけ就職が決まったかを見ると、職種によって明暗が分かれています。厚生労働省の「職業紹介事業報告(令和6年度)」では、常用就職件数が次のように変わりました。
- 看護師、准看護師:79,412件(-10.3%)
- 歯科医師、獣医師、薬剤師:10,994件(-19.6%)
- 施設介護の職業:39,719件(+29.1%)
- 福祉・介護の専門的職業:38,846件(+24.8%)
- 保育士:22,156件(+3.5%)
人手が足りないのに、看護師や薬剤師の紹介は減っている。ここに、各社が「どう集めるか」に頭を悩ませている理由がありそうです。
出典:厚生労働省 一般職業紹介状況(令和8年8月分)参考統計表、厚生労働省 令和6年度 職業紹介事業報告の集計結果(速報)
集め方①:自前の会員基盤を持つ(エムスリー・メドレー・エス・エム・エス)
エムスリー:医師会員35万人のm3.comが入口
医療従事者向けサイト「m3.com」を運営するエムスリーは、子会社のエムスリーキャリアで医師・薬剤師の転職支援を行っています。キャリアソリューション事業の2026年3月期の売上収益は227.99億円(+9.0%)でした。
強みは、国内の医師会員35万人以上を抱えるm3.comそのものが、求職者の入口になっていることです。投資家向けの統合報告書では、そのため外部への広告宣伝費がほとんどかからないと説明しています。他社が広告費をかけて集めている求職者を、自社のプラットフォームの中で見つけられるわけです。
さらに、AIを使って、登録から面接先を絞り込むまでの期間を、平均30日から最短1分に縮めることを目指しています。ただし、2027年3月期第1四半期は「医師、薬剤師向けともにスローな滑り出し」で、売上は前年同期比で約3%減りました。
出典:エムスリー 2026年3月期 有価証券報告書、エムスリー M3 Report for Investors 2026、エムスリー 2027年3月期 第1四半期 決算説明資料
メドレー:会員333万人、TVCMとM&Aで拡大
医療・介護の求人サイト「ジョブメドレー」を運営するメドレーは、人材プラットフォーム事業の2026年12月期上半期の売上が166.82億円(+24.4%)でした。ジョブメドレーの従事者会員は333万人(前年比+20%)、掲載求人は47.7万件(前期末比+1.3%)です。
集客では、中長期の売上につながるテレビCMに投資しています。料金は、入職が決まったときに年収の3〜12%を受け取る成果報酬型で、一般的な人材紹介より安いダイレクトリクルーティング(事業所が求職者に直接スカウトを送る仕組み)が中心です。
注目は、2026年8月にリクルートメディカルキャリアの医師・薬剤師の転職支援事業を、新設会社の株式取得という形で10億円でグループに迎えたことです。この事業には、医師6万件以上、薬剤師7万件以上の累計登録者がいます。メドレーは、自社の集客力と、この事業の採用支援のノウハウを組み合わせて、求職者と顧客の両方を増やす好循環を狙うとしています。
出典:メドレー 2026年12月期 中間決算短信、メドレー 2026年12月期 第2四半期 決算説明資料、メドレー 事業取得に関するお知らせ(2026年3月27日)、メドレー 2025年12月期 有価証券報告書
エス・エム・エス:紹介とダイレクトリクルーティングの二本立て
介護・医療・保育の人材紹介大手のエス・エム・エスは、2027年3月期第1四半期のキャリア事業の売上が141.10億円(+8%)でした。「ナース専科 転職」「カイゴジョブエージェント」「保育士人材バンク」などのブランドで、自社サイトへの登録とスカウトメールで求職者を集めています。
資料からは、集客のための具体的な打ち手が読み取れます。
- テレマーケティング組織の強化と、ターゲットを絞ったCRM(顧客管理)
- ブランド力を高めるための認知施策
- 求職者とつながるコミュニティや就職フェア
- 資格取得スクールを通じた、未経験者の資格取得支援
また、介護求人サイト「カイゴジョブ」を、2025年7月に職種横断のダイレクトリクルーティングサービス「ウェルミージョブ」に刷新し、LINE公式アカウントで仕事を探せるようにしました。キャリアパートナー(コンサルタント)は1Q平均で1,650人(+6%)と、人も増やしています。
出典:エス・エム・エス 2027年3月期 第1四半期 決算及び会社説明資料、エス・エム・エス 2026年3月期 決算及び会社説明資料、エス・エム・エス 2026年3月期 第1四半期 決算説明資料、エス・エム・エス 有価証券報告書(第23期)
集め方②:テレビCMと学生への接点(クイック・ウィルグループ・日本調剤)
クイック:「看護roo!」をTVCM・Web CM・SNSで浸透
クイックは、看護師向けのWebサービス「看護roo!」を軸に看護師の紹介・派遣を伸ばしています。有価証券報告書では、TVCMやウェブCM、SNSの活用によるプロモーション強化でブランドを浸透させていると書いています。紹介の求職者は、自社の登録サイト、インターネット広告、転職プラットフォームなどで集め、派遣の登録者は知人紹介の促進でも増やす方針です。
もう1つの入口が看護学生です。新卒向けの「看護roo! 就活」の掲載病院を増やし、看護学校での就活セミナーも広げています。学生のうちから接点を持っておけば、数年後の転職のときにも思い出してもらえます。
一方で、有価証券報告書では、今後の見通しとして登録者獲得コストの増加や競争の激化を挙げています。事業等のリスクには、検索の「AIによる概要」の普及で集客効果が落ちるおそれも書かれています。Web検索に頼った集客が、AI検索で変わり始めていることがうかがえます。
出典:クイック 有価証券報告書(第46期)、クイック 2026年3月期 決算説明資料
ウィルグループ:介護人材をM&AとTVCMで強化
人材派遣・紹介のウィルグループは、介護施設などへの人材サービスをヘルスケアとして伸ばしています。2027年3月期第1四半期の国内事業の増収額の内訳では、ヘルスケアが+8.6億円と最も大きくなっています。2025年10月には、介護・看護を中心とした人材紹介のHR CAREERをグループに迎えています。
2026年6〜7月には、関東・関西でブランド「WILLOF」のテレビCMやYouTube、Instagram広告を流しました。説明会では、サイトのセッション数と応募数が前年同期の2倍以上になったとしつつ、まだ様子を見る必要があるとも話しています。外国人の雇用支援も4,922人(+38.6%)に増えています。
出典:ウィルグループ 2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料(TDnet掲載資料)、ウィルグループ 決算説明会 書き起こし(同社告知)
日本調剤:SNS・インフルエンサーと薬学生
薬剤師の派遣・紹介「ファルマスタッフ」を持つ日本調剤(2025年12月に上場廃止)は、上場時最後の通期となった2025年3月期の決算説明資料で、求職者の集め方を具体的に書いています。
- 転職を考え始めた層へのアプローチとして、SNSやインフルエンサーの活用
- 薬学生の集客強化として、ウェビナー、セミナー、学内ガイダンス
- マッチングの精度とスピードを上げるシステム刷新
ただ、薬剤師紹介の登録者数は伸び悩んでいて、2026年3月期の中間期は、主力の薬剤師の派遣・紹介と医師紹介が前年同期を下回りました。
出典:日本調剤 2025年3月期 決算説明資料、日本調剤 2026年3月期 半期報告書
集め方③:自社の施設・教育・外国人材で「育てて集める」(ライク・ヒューマン・クオール)
ライク:自社の保育園・介護施設と外国人材
ライクは、人材サービスに加えて、自社で保育園や介護施設を運営しているのが特徴です。2026年5月期は、自社の保育施設などで設立以来最多となる250名の新卒(保育士166名など)を採用しました。AIやDXによる採用の強化と、未経験者の教育環境の再整備も進めています。
さらに、外国人材を次の成長の柱に位置づけています。長期経営計画では、正社員の介護士の約25%を外国人材にすることを掲げ、海外で介護人材を育てて自社と他社の施設に送り出す構想も示しています。
出典:ライク 2026年5月期 決算短信(TDnet掲載資料)、ライク 長期経営計画(TDnet掲載資料)
ヒューマンホールディングス:教育事業から人材へ
ヒューマンホールディングスは、人材・教育・介護などの事業を持っています。人材の募集はインターネットや新聞、雑誌などの広告に加えて、グループの教育事業と連携した「育成型派遣」も行っています。介護の職員は、社内資格や教育研修制度で育て、外国人材の活用も進めています。
出典:ヒューマンホールディングス 2026年3月期 決算短信(TDnet掲載資料)
クオール:薬局グループの強みとAIで集客
調剤薬局大手のクオールホールディングスは、子会社のアポプラスキャリアで薬剤師などの紹介・派遣を行っています。有価証券報告書では、AIなどのツールを活用して集客数を拡大すると書いています。前期に社員の採用を強めた結果、成約件数は増えたものの、人件費や広告宣伝費も増えたとしています。中期経営計画では、利益率の高い紹介事業にリソースを集中し、転職を考えている層とまだ考えていない層の両方の集客を広げる方針です。
出典:クオールホールディングス 2026年3月期 有価証券報告書、クオールホールディングス 決算説明会資料・中期経営計画
苦戦している例:ディップ「ナースではたらこ」
求人サイト「バイトル」で知られるディップは、2009年から看護師専門の転職サービス「ナースではたらこ」を運営しています。ただ、人材紹介(エージェント)の売上は、2026年2月期が18.48億円で前期の21.20億円から減り、2027年2月期第1四半期も5.21億円と前年同期の7.32億円を下回りました(減少率は筆者計算で約13%、約29%)。
人材サービス事業全体については、前期にソリューション型の体制に変えた影響で、新規顧客などの契約獲得が鈍ったと説明しています。今後は、看護・介護の紹介サービスで「dip AI AGENT」を作り、メディア・人材紹介・DX商品を組み合わせて提案するとしています。
出典:ディップ 2026年2月期 決算短信(TDnet掲載資料)、ディップ 2027年2月期 第1四半期 決算短信(TDnet掲載資料)、ディップ 2026年2月期 第3四半期 決算説明資料
共通する変化:「お金で釣る」集客から、仕組みで集める集客へ
勤続支援金・お祝い金はやめる流れ
以前は、転職が決まった人に「お祝い金」や「勤続支援金」を払って登録を促すサービスもありました。しかし、職業安定法の指針で、職業紹介事業者がお祝い金などの名目で社会通念上相当な程度を超える金銭を渡して求職を促すことは禁止されています(2021年4月から)。2025年4月からは、求人サイトなどの募集情報等提供事業者も、求職者に金銭やギフト券などを渡すことが原則禁止になりました。
実際に、メドレーは職業安定法の省令・指針の改正に対応するため、ジョブメドレーで求職者に払っていた勤続支援金を廃止したと有価証券報告書に書いています。エス・エム・エスも、ダイレクトリクルーティングでの勤続支援金の廃止が売上の伸びを抑えたと説明しています。
手数料と早期離職への目も厳しく
厚生労働省は、医療・介護・保育の人材紹介について、職種別の平均手数料率と、紹介で入職した人の6か月以内の離職率を公表しています。
- 看護:手数料率21.4%、離職率10.2%
- 介護:手数料率22.3%、離職率13.1%
- 保育:手数料率27.2%、離職率13.9%
2025年4月からは、紹介手数料の実績を厚労省の「人材サービス総合サイト」で公開することが義務になりました。2026年7月の政府答弁書では、手数料に一律の上限を設けることは困難としつつ、既存の取り組みを続けるとしています。ハローワークの「人材確保対策コーナー」も、福祉人材センターやナースセンター、保育士・保育所支援センターと連携して、医療・介護・保育の無料のマッチングを行っています。
こうした流れの中で、各社は高い手数料の人材紹介だけに頼らず、成果報酬型のダイレクトリクルーティングや、AIによるマッチングを広げています。エス・エム・エスは、人材紹介の「マッチング力」をAIでモデル化してダイレクトリクルーティングに組み込む方針で、AIの進化によって「労働集約型」から「資本集約型(ソフトウェア)」への転換が可能になったとしています。
10社から分かったこと
- 一番強いのは、求職者が日常的に使う場を持っていること。エムスリーのm3.com、メドレーのジョブメドレー、クイックの看護roo!のように、転職の前から接点がある会社は広告に頼らずに集められる
- 入口は「転職を考える前」に移っている。看護学生や薬学生への学内セミナー、SNSやインフルエンサー、コミュニティなど、まだ転職を考えていない層との接点づくりが増えている
- 「集める」から「育てる」へ。資格取得スクール、未経験者の教育、自社施設での新卒採用、外国人材など、資格者を新しく生み出す動きが広がっている
- M&Aで登録者ごと買う。メドレーのリクルートメディカルキャリア、ウィルグループのHR CAREERのように、登録者や採用ノウハウを持つ事業を取り込む
- 規制とAIで、人材紹介の形が変わっている。お祝い金に頼る集客はできなくなり、手数料の透明化も進む中で、AIマッチングや成果報酬型のサービスへのシフトが進んでいる
まとめ:資格職の採用は「集客の仕組み」を持つ会社が強い
10社の資料を読んで分かったのは、看護師や介護士を集める方法は、テレビCMやWeb広告だけではないということでした。自社のメディアやコミュニティ、学校との接点、教育、外国人材、M&Aと、各社がそれぞれの入口を持ち、そこにAIを組み合わせています。そして、Web検索のAI化や規制の変化で、広告費をかけて登録者を集め、高い手数料で紹介するというやり方は、少しずつ難しくなっています。
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