北浜グローバル経営の急成長と倒産|補助金ビジネスの構造的リスク

中小企業の補助金申請を支援するコンサルティング企業として急成長を遂げた、北浜グローバル経営株式会社。
補助金申請サポートを軸に中小企業の経営改善を支援し、2023年3月期には売上高35億8,583万円を計上。
全国に顧客を広げ、採択件数・取扱金額ともに業界トップクラスの規模にまで成長しました。
しかし、好調に見えた同社は、2024年に約20億円の負債を抱えて倒産することになりました。
本記事では、北浜グローバル経営の事業内容と急成長の背景を解説するとともに、倒産することになった要因を解説していきます。






北浜グローバル経営ってやばいの?どんな会社?


北浜グローバル経営株式会社は、2012年に大阪で設立された、中小企業の補助金申請支援を主力業務とする経営コンサルティング企業です。
同社はもともと、代表取締役の前井宏之(まえい・ひろゆき)氏が2010年に立ち上げた、「北浜国際特許事務所」の経営コンサルティング部門を分社化したものです。
北浜国際特許事務所では、弁理士としての知的財産権業務と並行して、企業の経営・事業戦略に関するコンサルティングも取り組んでいました。
補助金ビジネス
そんな中、2012年に新たに創設された「ものづくり補助金」が大きな転機となります。
この制度は、設備投資や業務プロセスに利用できる補助金であり、多くの企業が申請を希望しました。
しかし、こうした補助金申請には多くの準備が必要なため、申請サポートの需要が高まってきます。
こうしたサポート業務は「補助金ビジネス」と呼ばれ、同社はこの業界で大きな存在感を放っていました。
顧客の事業計画や財務状況、申請目的のヒアリングを行い、申請書作成のサポートを行い、採択後のフォローや、市実績報告書の作成など、ワンストップ型の補助金支援サービスを行っていました。
また、こうした申請業務以外にも、人材育成やDX支援事業を手がけており、主力である「補助金ビジネス」の傍ら、企業向けの経営コンサルティングも行っていました。
急成長を遂げたワケ


北浜グローバル経営は、設立から10年ほどで、売上高35億円、200名を超える従業員を抱えるほどの急成長を遂げていきました。
この成長を遂げた背景には、いくつかの要因があります。
ものづくり補助金
2012年から始まった「ものづくり補助金」は北浜グローバル経営が誕生するきっかけになる出来事でした。
それまでの補助金は、研究開発型の支援が中心であり、大学や公設試験研究機関との連携が条件となるものも多く、中小企業にとっては申請のハードルが高いものでした。
しかし、「ものづくり補助金」は、研究開発に限らず、設備投資や業務プロセス改善にも利用できる柔軟な制度として設計されました。
さらに、国が割り当てる予算規模が1,000億円超と非常に大きく、補助金額も高額(最大3000万円)であったため、
多くの中小企業にとって魅力的な支援策となりました。
産業競争力強化法と事業再構築補助金
2014年に施行された「産業競争力強化法(産競法)」により、補助金ビジネス市場は大きく発展することになります。
産競法は、安倍政権下で進められた「アベノミクス」の成長戦略を具体化するために制定された法律で、全国の企業の約99.7%を占める中小企業の生産性向上と成長促進を目的としていました。
この法律は、規制改革や税制優遇、研究開発・事業支援などを目的としており、その中には企業の経営を助ける「補助金」も含まれていました。
産競法の影響から、以下のような補助金制度が整備されて行くようになりました。
- 事業継承・引継ぎ補助金
- 中小企業の後継者問題や統合、M&Aによる事業継続支援
- IT導入補助金
- 中小企業のDX化と業務効率化を目的としたITツール導入支援
- 事業再構築補助金
- コロナ化を契機とした、新規事業や業務転換の支援
こうした補助金制度はいつしか「補助金バブル」と呼ばれるほどの大きな規模に成長することになりました。
特に、コロナ禍で生まれた「事業再構築補助金」の規模は大きく、補助金が始まった2021年は1兆円を超える予算が組まれており、最大1億円の補助を受けることができました。
また、産業競争力強化法は、企業の競争力向上を目的として制定された法律であり、補助金を通じた成長戦略を政府は求めていました。
こうした政策方針により、企業の間で「補助金を活用して成長しなければ取り残される」という意識が高まり、結果として補助金の利用を一層加速させる要因にもなりました。
産業競争力強化法と事業再構築補助金により、北浜グローバル経営は大きな成長を遂げることができたのです。
成功報酬型によるハードルの低さ
北浜グローバル経営の成長を支えた大きな要因のひとつが、「成功報酬型」による依頼ハードルの低さです。
従来のコンサルティングや申請サポートでは、「着手金」「プロジェクト契約」「月額顧問契約」など、プロジェクトの成否にかかわらず費用が発生するケースが一般的でした。
中小企業にとっては、成功するか分からないのに多額の費用を支払うリスクを抱えることになり、利用を控える企業も多く存在していました。
そこで北浜グローバル経営は、「補助金が採択された場合にのみ報酬を受け取る」成功報酬型の仕組みを導入することで、顧客側が抱えるリスクを取り除き、多くの相談を受けることになりました。
相談件数が増加することで、口コミや紹介によって顧客が自然と広がっていくことや、実績を多く積むことで生まれる「ブランド力」の高さにより、新規顧客獲得の強力な営業材料にもなりました。
提携金融機関の多さ
北浜グローバル経営の業績がさらに拡大した要因のひとつに、提携金融機関の多さが挙げられます。
補助金申請を行う際には、政府が定めた「認定経営革新等支援機関(認定支援機関)」の関与が求められています。
これらの認定支援機関は、企業に補助金制度の情報を提供するだけでなく、事業計画や財務内容を確認し、計画の実現性を裏づける「信用の保証人」のような役割を担っています。
北浜グローバル経営は、こうした認定支援機関である金融機関との連携を積極的に進めました。
銀行や信用金庫から、補助金を活用したい企業を北浜グローバル経営に紹介することで、同社は新規顧客を効率的に獲得することができました。
一見すると、北浜グローバル経営が一方的に利益を得ているように見えますが、金融機関にも明確なメリットが存在しています。
補助金は採択されてから、実際に交付されるまでにはある程度の期間を要します。
その間に資金が必要となる企業も多く、この期間の「つなぎの融資」を金融機関が受け付けることで、新たな融資機会を得ることができました。
また、補助金では賄いきれない設備投資や研究開発費用の追加融資にもつながり、金融機関にとっても新たな収益源となりました。
北浜グローバル経営は何故倒産したの?


補助金バブル、成功報酬型モデル、金融機関との連携を背景に、事業を拡大した北浜グローバル経営。
2023年には売上高35億円を計上しましたが、翌年の2024年には約20億円の負債を抱えて倒産することになりました。
ここでは、北浜グローバル経営が倒産に至った経緯をご紹介します。
補助金審査の厳格化と採択率の低下
北浜グローバル経営の業績を悪化させた要因には「審査の厳格化」と「採択率の低下」があります。
補助金は国や自治体の公金によって賄われるため、制度の信頼性を維持し、不正受給を防ぐことが求められます。
補助金ビジネス市場の拡大に伴い、申請件数が急増した結果、行政側はより費用対効果の高い案件に補助を行うべく、
審査基準を厳格化する方向へと方針を転換しました。
以下の表が、事業再構築補助金の採択に関するデータです。
公募回 | 公募締切 | 応募者数 | 採択者数 | 採択率 |
---|---|---|---|---|
第1回 | 2021年4月30日 | 22,229 | 8,015 | 36.1% |
第2回 | 2021年7月2日 | 20,800 | 9,336 | 44.9% |
第3回 | 2021年9月21日 | 20,307 | 9,021 | 44.4% |
第4回 | 2021年12月21日 | 19,673 | 8,810 | 44.8% |
第5回 | 2022年3月24日 | 21,053 | 9,707 | 46.1% |
第6回 | 2022年6月30日 | 15,340 | 7,669 | 50.0% |
第7回 | 2022年9月30日 | 15,132 | 7,745 | 51.2% |
第8回 | 2023年1月13日 | 12,591 | 6,456 | 51.3% |
第9回 | 2023年3月24日 | 9,368 | 4,259 | 45.5% |
第10回 | 2023年6月30日 | 10,821 | 5,205 | 48.1% |
第11回 | 2023年10月6日 | 9,207 | 2,437 | 26.5% |
第12回 | 2024年7月26日 | 7,664 | 2,031 | 26.5% |
第13回 | 2025年3月26日 | 3,100 | 1,101 | 35.5% |
https://svltd.co.jp/jigyou-saikouchiku-col/detail.html?id=2003
事業再構築補助金「採択結果」https://jigyou-saikouchiku.go.jp/result.html
事業再構築補助金「公募要領」https://jigyou-saikouchiku.go.jp/koubo.html
第1回はやや低めだったものの、第2回から第10回までは45〜50%前後で推移していました。
しかし、第11回では採択率が30%を大きく下回り、それまでと比較すると大きく採択率が低下しています。
この背景には、採択基準の見直しと制度の厳格化があります。
同社は2021年にコロナ禍を契機として始まった「事業再構築補助金」で急成長を遂げましたが、2023年11月に内閣官房行政改革推進本部事務局が実施した「行政事業レビュー 秋のレビュー」では、事業再構築補助金に関する厳しい意見が相次ぎ、採択の基準を見直すきっかけになりました。
さらに、第12回からは制度が正式に改定され「事前着手制度の原則廃止」「金融機関確認書提出義務の拡大」など、
審査の厳格化が明文化されるようになりました。
一方、北浜グローバル経営は従業員数と案件数を急速に増加させていました。
しかし、案件の増加に対して品質管理体制が追いつかず、そこへ補助金制度の厳格化が重なったことで、採択率は大幅に低下していくことになりました。
成功報酬型による先行コスト
北浜グローバル経営は、成功報酬型によるハードルの低さを武器に成長を遂げていましたが、このビジネスモデルには資金繰りに大きな問題点を抱えています。
補助金支援には、企業へのヒアリング、事業計画の作成、書類の査定など、採択までの時間に多くの時間と費用が発生します。
しかし、成功報酬型では採択が決定するまでに一切の報酬が発生しません。
案件数を増やすことで、売上増加につながりますが、人件費や外注費などの先行コストが膨らむことになります。
2023年以降、同社は事業拡大を進めるため、従業員と案件数を急速に増やしていきました。
しかし、品質の低下や制度の厳格化により、採択率は大きく低下し始めました。
その結果、未回収コストや先行コストが増加し、資金繰りが急速に悪化していくことになりました。
固定費の増大
もう一つの大きな要因は、急拡大した事業拡大に伴う固定費の増大です。
北浜グローバル経営は、本社を大阪駅前の「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」に移転することや、従業員数を急速に増加させるなど急速な拡大を行っていました。
しかし、この拡大により人件費や家賃といった固定費が急増し、財務状況に大きな影響を与えることになりました。
高い固定費を維持していくためには、強固な資本力と収益基盤が必要不可欠です。
しかし、北浜グローバル経営の主力業務である「補助金ビジネス」は、採択率や制度の変化に大きく影響を受けます。成功報酬型であったことから、不採択になると報酬が入ってこないことも、資金繰りを悪化させた原因でした。
北浜グローバル経営は、こうしたビジネスモデルのため、高い固定費を維持することが難しく、倒産に至る事態となりました。
北浜グローバル経営の倒産は、SNSや一部関係者で「計画倒産ではないか」という憶測も見られました。
しかし、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査の期間の報告でも、資金繰りの悪化が主な原因とされていて、計画倒産を示す具体的な事実は確認されていません。
補助金ビジネスの危うさと、急拡大した事業領域により、資金繰りが急速に悪化し、倒産に至りました。
補助金ビジネスの闇


本来、補助金の目的は「経営支援」にありますが、補助金申請支援を行う一部の企業では、「経営支援」ではなく「採択されること」が目的になっているケースもあります。
こうした企業では、申請書の内容を盛ることで「採択を取るための計画書」を作成する場合もあります。
また、採択件数を重ねることで、実績と売上につながるため、内容よりもスピードを重視した表面的な計画書が量産されることになります。
事業を実行できずに終わり、本来の目的である「経営課題の解決」をなおざりにしてしまうことになります。
成功報酬型モデルのリスク
現在、補助金ビジネスで広く採用されている成功報酬型モデルは一見リスクがないように思えますが、実は企業と顧客の双方にリスクが潜んでいます。
初期費用がかからない成功報酬型モデルは、新規案件が来やすい。
多くの案件を同時にこなすことで品質が低下し、採択率も連動して下がってしまう。
採択されるまで報酬が一切発生しないうえに、不採択の案件が増えることで未回収・先行コストが積み上がり、資金繰りが急速に悪化していく。
少しでも売上を上げるため、採択見込みが低い案件も受けるようになる。
成功報酬型モデルを主力業務に置く企業では、採択率や制度の変化に業績が左右されるため、安定した資本基盤を築きにくいという課題を抱えています。
採択されなければ報酬が発生せず、また採択が決定するまでの期間は報酬がゼロであるため、人件費や外注費などの先行コストが膨らみやすく、資金繰りが不安定になる構造を持っています。
顧客側からすると、成功報酬型モデルにはリスクがないように思えますが、案件を大量に抱えやすく、一社あたりのサポートが手薄になる可能性が高いことはリスクになります。
無理な事業拡大や大量受注は、コンサル企業自身の資金繰り悪化や品質低下を招く恐れがあり、コンサル企業には慎重な成長戦略と徹底した品質管理が求められます。
一方で、補助金支援を受ける企業にとっては「価格の安さ」や「スピード」も重要な指標になりますが、表面的な条件だけで判断せず、信頼できる企業選びが必要になります。
まとめ
北浜グローバル経営の成長と倒産は、補助金ビジネスの構造を明確にする出来事でした。
金融機関との提携や成功報酬型により、同社は業界トップクラスまでに急成長を遂げました。
しかし、採択率の低下や制度の厳格化、急拡大に伴う品質管理と資金繰りの悪化が経営を圧迫し、経営は破綻してしまいました。
この事例は、補助金制度に依存したビジネスの不安定さと、持続的な経営基盤の重要性を改めて示しています。
セルバでは補助金・助成金の申請サポートを行っており、90%以上の採択率を維持しています。
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