丸亀製麺の値上げは客離れを招いたのか?経営戦略と差別化

物価高騰を背景に、外食チェーンでは値上げが相次いでいます。
安さと手軽さで支持されてきた丸亀製麺も例外ではなく、2022年以降、複数回の価格改定を行ってきました。
うどんの価格が上がる中、「安くないと魅力が薄れるのでは?」という声も広がっています。
では、実際に丸亀製麺で客離れは起きているのでしょうか。
本記事では、値上げの背景やその後の客足の動き、経営戦略、他社との比較まで解説していきます。
値上げの基本情報


外食業界では、近年の物価高を背景に値上げの動きが相次いでいます。
丸亀製麺も例外ではなく、2022年以降はほぼ毎年のように主力商品を含めた値上げを実施してきました。
以下が、2022年以降に行われた値上げの時期と内容です。
- 2022年1月
- 多くのうどんを20〜30円値上げ、一部天ぷらも10円値上げ。
看板商品の 釜揚げうどん(並・290円)は据え置き。
出典:2021年12月26日 一部商品価格改定のお知らせ
- 多くのうどんを20〜30円値上げ、一部天ぷらも10円値上げ。
- 2022年10月
- 「かけ・ぶっかけ・ざるうどん(並)」を340円→360円に。
「釜玉」「とろ玉」も30〜40円値上げ。
出典:2022年10月4日 価格改定のお知らせ
- 「かけ・ぶっかけ・ざるうどん(並)」を340円→360円に。
- 2023年3月
- 釜揚げうどん(並)が290円→340円へ値上がりし、久しぶりの価格改定で大幅な値上げ。
「かけ・ぶっかけ・ざる(並)」も360円→390円に。
出典:2023年2月10日 価格改定のお知らせ
- 釜揚げうどん(並)が290円→340円へ値上がりし、久しぶりの価格改定で大幅な値上げ。
- 2024年1月
- 「とろ玉うどん(並)」や天ぷら・弁当類を10〜30円値上げ。
値上げ対象が幅広く拡大。
出典:2023年12月27日 価格改定のお知らせ
- 「とろ玉うどん(並)」や天ぷら・弁当類を10〜30円値上げ。
- 2025年1月
- 主力4品(釜揚げ・かけ・ぶっかけ・ざるの各並)が一律30円値上げ。
天ぷらも一部で10〜20円値上げ。
出典:2024年12月27日 価格改定のお知らせ
- 主力4品(釜揚げ・かけ・ぶっかけ・ざるの各並)が一律30円値上げ。
以前にも小規模な価格改定はありましたが影響は限定的で、2022年以降は全店共通の大きな改定が5回続いています。
特に、2023年の釜揚げうどん(並)の改定は久しぶりの値上げとして注目され、290円から340円へと50円の大幅な値上げが行われました。
結果として2022年から現在(2025年9月)までに、うどん類は平均で約80円、天ぷら類は平均で約30円の値上げとなっています。
値上げを行った背景


ここまで値上げの内容について整理してきましたが、なぜ丸亀正麺は値上げをここまで実施したのでしょうか。
値上げの背景について解説します。
原材料費の高騰
丸亀製麵は、国産小麦を使用しており、輸入小麦より価格変動の影響は少ないものでした。
しかし、2022年以降は、ウクライナ情勢による穀物市場の混乱、原油価格の上昇、中国などによる肥料輸出規制が重なり、国内の農業生産コストは大幅に増加しました。
さらに、揚げ物に欠かせない食用油も、ウクライナ情勢によるひまわり油の供給減やインドネシアのパーム油輸出規制といった供給制約が重なり、価格が高騰。天ぷら類のコストも大きく上昇しました。
人件費の高騰
外食産業では人手不足が深刻化しており、アルバイトやパートの時給は都市部を中心に上昇を続けています。
国の最低賃金引き上げ政策により、地方店舗でも人件費負担が拡大しました。
丸亀製麺は、各店舗で小麦粉から麺を打ち、天ぷらも店内で揚げて提供するスタイルを取っています。
そのため、工場である程度調理を済ませて各店に配送する「セントラルキッチン方式」のチェーンに比べ、人手を必要とする度合いが高いのが特徴です。
店内での現場調理は差別化の強みである反面、教育コストがかかるため大きな人件費負担につながっています。
光熱費・コストの増加
丸亀製麺の店舗では、大きな釜でうどんを茹で続け、天ぷらを揚げる油鍋を常に高温で保つ必要があります。
そのため電気やガスの料金が上がると、店舗運営に直結する大きな負担となります。
燃料価格の上昇は輸送コストに直結するため、全国に900店舗以上を展開する丸亀製麺では、その分多くの輸送コストを支払う必要があります。
冷蔵・冷凍品の取り扱いも多く、エネルギー価格の上昇は物流・保管コストの全体に影響しています。
値上げ後の客足と売上


丸亀製麺は安さを魅力に感じていた顧客も多いため、値上げに踏み切るのはリスクでもあります。
実際に、丸亀製麺の値上げは顧客の行動や店舗の売上にどのような影響をもたらしたのでしょうか。
値上げ後の客数と売上の動向についてご紹介します。
客足の推移
丸亀製麺の客足については、2020〜2021年のコロナ禍で外食需要が一時的に落ち込んだ背景はあったものの、それは業界全体に共通する状況でした。
重要なのは、値上げを実施した2022年以降の動きです。
値上げが始まってからも大きな客離れは起きず、むしろ外食需要の回復とともに来店数は増加傾向にあります。
丸亀製麵を運営するトリドールホールディングスの月次売上高レポートによると、前年同期間比ではおおむね横ばいから微増を示しており、値上げが直接的に客数の減少を招いた兆候は見られませんでした。
テイクアウトの拡充や、セルフスタイルを活かした店舗改装などが客足の増加に貢献したこともあり、「多少値上げされても利用したい」と感じる顧客が一定数存在していることがわかります。
売上の推移
丸亀製麺は2022年以降、5回の値上げを行い、売り上げ大きく伸ばしています。
- 2019年3月期(コロナ前) 売上収益 約899億円
出典:株式会社トリドールホールディングス 2019年3月期 決算説明資料 - 2022年3月期(値上げ直前) 売上収益 約921億円
出典:株式会社トリドールホールディングス 2022年3月期決算および中長期経営計画 説明会資料 - 2023年3月期(値上げ直後) 売上収益 約1,021億円
出典:株式会社トリドールホールディングス 2023年3月期 決算説明資料 - 2025年3月期(直近) 売上収益 約1,281億円
出典:株式会社トリドールホールディングス 2025年3月期 決算説明資料
丸亀製麵の売り上げは、値上げ直前、コロナ前のどちらと比べても、大きな成長を遂げています。
値上げは客単価の向上につながっており、月次売上高レポートによると客単価は前年同期間比で+5%前後の上昇を継続して記録しており、10%を超える月もありました。
また、店舗改装を行ったことも売上につながり、15%以上増加したという報告もあります。
値上げだけでなく「体験価値の強化」が売上拡大を後押ししました。
丸亀製麵の値上げは、「安さを魅力に感じていた層」に一定の影響を与えた可能性はありますが、実際の客足は落ち込むことなく安定していました。
値上げで起きる客単価の上昇により、過去最高売上を更新し続けています。
丸亀製麺の体験戦略


丸亀製麺が値上げを繰り返しながらも客足を維持できたのは、価格以外の価値を提供する戦略を持っていたからです。
調理工程を見せるライブ感
一般的に外食産業で、単価の低いうどんやそばで収益を上げるためには、 多くの席数を設けて回転率を高め、厨房をコンパクトに抑えて客席を広く取るのが常識とされてきました。
しかし丸亀製麺は、店内にあえて大きな厨房と製麺スペースを設け、麺を打つ・ゆでる・天ぷらを揚げる工程を可視化しました。
その結果、「回転率を上げる常識」から外れた「非効率な構造」が、消費者にできたてを食べているという安心感とライブ感を提供しました。
丸亀製麺が登場する以前、こうした「調理工程を見せる」スタイルを採用するうどんチェーンはほとんど存在しておらず、こうした体験価値の強化が丸亀製麵の最大の特徴になり、差別化につながりました。
セルフスタイルによる参加体験
丸亀製麺の大きな特徴のひとつが、顧客が料理の仕上げを楽しめるセルフスタイルです。
うどんを注文した後、自分で天ぷらやおにぎりをトレーに取る形式を採用しており、メニュー表から選ぶのではなく、実際の料理を目の前で選ぶことができます。
その後、ネギや生姜、天かすといった無料のトッピングを自由に盛り付けることができ、「自分好みの一杯を作る」参加型の食体験を実現しています。
2025年5月からは、「わかめ」と「しび辛ラー油」が新たに追加され、計8種類のトッピングを楽しむことができるようになりました。
実際に選ぶ体験が宣伝効果となり客単価を高め、同時に提供の手間も減らせることで、収益性と効率化の両立を可能にしています。
調理を見せる工夫とセルフスタイルの仕組みは、一般的な外食チェーンには少ないものであり、丸亀製麺独自の魅力となりました。
単なる安さではなく、「楽しさ」や「できたての実感」で選ばれることに成功し、差別化とブランド強化に大きく寄与しています。
多用な商品戦略


丸亀製麺は、値上げだけでなく、多様な商品戦略を展開することで顧客に新しい魅力を提供してきました。
ファミリー層向けの取り組み
2025年1月の価格改定と同時に導入された 12歳以下の子ども向けメニュー「お子さまもちもちセット」 は、発売から3カ月で120万食以上を販売しました。
これは1日あたり約1万3,000食が売れた計算で、子ども向けメニューとしては異例のヒット商品といえます。
テイクアウトと話題性商品の創出
コロナ禍で高まったテイクアウト需要に応える形で、2021年に発売した 「丸亀うどん弁当」 は、半年で900万食以上を販売しました。
テイクアウト比率を約3%から13%に押し上げ、一部店舗では売上の15%前後を占めるまでに成長しました。
さらに2023年には、ドリンクカップのような縦長の透明な容器にうどんを入れ、そのままシェイクして具材とだしを混ぜ合わせるという「丸亀シェイクうどん」を発売しました。
2カ月半で250万食以上を販売し、持ち歩きやすさとSNS映えする見た目が若年層に受け、新規顧客層を開拓しました。
顧客アンケートを生かした商品開発
丸亀製麺は、店頭やアプリを通じて集めた顧客アンケートを新商品開発に反映しています。
その代表例が2024年に発売された 「丸亀うどーなつ」 です。
消費者の「もっと気軽に食べられる間食系商品が欲しい」という声をもとに開発され、発売から3カ月で700万食を突破する大ヒットとなり、SNSやメディアでも話題を集めました。
顧客のニーズを的確に捉えたことで、新たな需要を開拓し、ブランド強化にもつながりました。
ファミリー層を取り込む「お子さまもちもちセット」、コロナ禍に登場した「丸亀うどん弁当」、若年層を意識した「丸亀シェイクうどん」、そしてデータ分析から生まれた「丸亀うどーなつ」。
これらの商品はいずれも消費者の多様なニーズを的確に捉え、新たな顧客層を開拓してきました。
多様な商品戦略は、単に売上を押し上げるだけではなく、ブランドそのものを強化する手段となっています。
まとめ
丸亀製麺は、物価高騰を背景に2022年から複数回の値上げを行いました。
それでも客足は減少せず、売り上げは増加を続けています。
その背景には、調理工程を見せることで生まれる臨場感や、セルフで仕上げる楽しさといった体験戦略、そしてファミリー層や若年層を取り込むための多くの商品戦略がありました。
価格以外の価値を提供したことで、成長につながる経営戦略として成功させた好例と言えます。
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