業務システムやWebアプリを開発する際、開発方式のひとつに「スクラッチ開発」があります。
「他の開発手法との違いは？」「どういう時に選べばいいの？」「そもそもスクラッチ開発って何？」と疑問に思う方も多いでしょう。

本記事では、スクラッチ開発の基本から、他の開発方式との違い、向いているケース、著作権の扱い、さらには工程の解説まで、これからシステム導入を検討する方に向けて分かりやすく解説します。

スクラッチ開発とは？｜定義と他手法との違い

スクラッチ開発の定義

スクラッチ開発とは、既存のパッケージやCMSなどを使わず、業務や要件に合わせてシステムを一から設計・開発する開発方式です。
ただし、完全にゼロから作るわけではなく、フレームワークや既存のライブラリなどの技術基盤を活用することが一般的です。

パッケージとフレームワークの違い

　　「パッケージ」と「フレームワーク」は似たような言葉ですが、その役割と使い方は大きく異なります。

　パッケージ

パッケージとは、あらかじめ機能が組み込まれた完成品のソフトウェアで、画面やデータ管理、処理方法などが設定済み。導入と設定のみで利用可能です

　フレームワーク

フレームワークは、システムを開発するための「土台」を提供する技術。あくまで骨組みであり、開発者がそれをもとにシステムを構築します。

他の開発方式との違い

開発には、スクラッチ開発以外にもフルスクラッチ開発やパッケージ導入型開発があります。

フルスクラッチ開発

パッケージやフレームワークすら使わず、構成や機能、画面設計をすべて一から作る方式。

ライブラリなど最低限の技術以外は使わず、独自性の確保と外部に依存しない開発体制が重視されます。
スクラッチ開発とフルスクラッチ開発は、「独自開発」「既製品を使わない」という点で共通しており、混同されることも多いです。

たとえるなら、フルスクラッチ開発は「素材を調達し、調理器具まで自作して料理する」ようなイメージです。
すべてを手作りで行うため、独自性を最大限に出せますが、その分、時間とコストがかかります。

パッケージ型開発

パッケージ型開発は、既に整っているソフトウェアをベースに、設定やカスタマイズをして使う方式です。

会計・勤怠・顧客管理など、業界に関係なく、多くの企業で行われている汎用化しやすい業務に多く見られます。

こちらは「レトルト食品を温めて食べる」ようなイメージ。導入が早くコストも抑えられますが、自由なカスタマイズには限界があります。

スクラッチ開発の立ち位置

スクラッチ開発はその中間にあり、「市販の食材と調理道具を使って、自分好みの料理を作る」ようなイメージです。

自由に調理できて独自性も出せる一方、ゼロからすべてを手作りするよりも効率的で、開発スピードやコストのバランスも取りやすい方法です。

スクラッチ開発の特徴

スクラッチ開発は、柔軟な設計と独自性を実現できる反面、コストや期間、体制づくりに注意が必要です。

ここでは、スクラッチ開発のメリットとデメリット、向いているケースについて解説します。

スクラッチ開発のメリット

• 業務に特化したシステムが作れる
  • 既製品にない業務ロジックやUIを実装可能
• 将来的な拡張・連携がしやすい
  • 外部システムとの連携や機能追加、システム改修も柔軟
• サービスや業務の差別化につながる
  • 既製のパッケージに頼らず、自社ならではの機能や導線を実現でき、競合との違いを明確に打ち出せる

スクラッチ開発のデメリット

• 初期コストが高い
  • 設計・開発・テストにかかる工数が大きい
• 開発期間が長くなりやすい
  • 丁寧な設計と段階的な開発が必要
• 属人化のリスク
  • 特定の社員への依存や開発体制、ドキュメント整備が不十分だと保守が困難に

スクラッチ開発が向いているケース

独自業務フローがある企業

業界や企業ごとにある独自の業務フローがある

複数部署をまたぐ場合が多い

将来的な拡張・変更を前提とした中長期視点のシステム開発

段階的な機能追加や、外部サービスとの連携を予定している

初期のリリース段階は最小限で行い、利用状況により拡張していく

競合他社と差別化したい事業モデルやサービス

オリジナル機能や操作性で独自の価値を提供したい場合

セキュリティや運用ルールに厳格に対応したい組織

金融・医療・公共機関など、情報統制が求められる業界

スクラッチ開発は、独自の業務フローを持つ企業や、将来的な拡張を見据えて柔軟なシステムを構築したい場合に適しています。
また、独自機能を必要とするサービスやセキュリティ要件が厳しい業界においても、有効な選択肢となります。自社ルールへの適合性や競合との差別化を重視する企業に向いた開発方式です。

著作権の取り扱い

システム開発において、プログラムや設計書などにも「著作権」が発生することをご存じでしょうか？
著作権は音楽や怪異画だけでなく、ソフトウェアにも適用される知的財産権の一つです。

システム開発を外部に依頼する際には、「著作権」の取り扱いに気を付けなければいけません。曖昧にしたまま進めていくと、納品後にトラブルになるケースが少なくありません。

ここでは、スクラッチ開発を含めたシステム開発の著作権について簡潔に解説します。

著作権の帰属先

日本の著作権法では、システム開発において制作したプログラムの著作権は、原則として開発者側（受託会社）に帰属します。システム開発のコストを負担したとしても、著作権は与えられることはありません。

しかし、開発者以外に著作権が帰属する場合があり、企業の社員が業務としてシステム開発を行った場合や、契約書などに著作権の譲渡に関する記載などがあれば、開発者以外に著作権が与えられる場合もあります。

著作権を自社に持たせるには？

契約時に「著作権は発注者に帰属する」または「著作権の譲渡を行う」と明記することが必要です。
また、納品形式（Git管理、ドキュメントの有無など）や、再利用・再販の可否も確認しておくと安心です。

著作権関係のトラブル

• システムの再利用ができない
• 自社での修正や改変が制限される
• 他社への保守・運用依頼ができなくなる

著作権の取り決めを曖昧にしたまま開発を進めると、完成後に再利用や修正、他社への再委託ができないなど、運用面での大きなトラブルにつながってしまうことが多くあります。
依頼する際には、著作権の帰属や使用範囲について契約を注意して行う必要があります。

著作権の基本やトラブル回避のための契約ポイントについては、以下の記事でも詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

スクラッチ開発の工程とポイント

スクラッチ開発では、段階的に設計・実装・運用を進めていくのが基本です。それぞれの工程で重要なポイントを押さえておくことで、手戻りやトラブルを防ぐことができます。

スクラッチ開発は自由度が高い分、関係者とのすり合わせと各工程での設計の正確さが重要です。
段階ごとにポイントを押さえて進めることで、実用性と継続性を備えたシステムを構築することができます。

よくある失敗とその原因

スクラッチ開発は自由度が高いぶん、進め方を間違えると失敗しやすい開発手法です。
特に、要件定義や設計などの初期段階でのミスが原因になることが多いです。ここではそんな失敗と原因についてご紹介します。

• 要件が曖昧なまま進めてしまう
  　→完成後に「こんなはずじゃなかった」と気づき、修正に大きな手間とコストがかかる。
• 現場の声を反映せずに設計する
  　→実際の業務と嚙み合わず、使いづらいシステムになる。
• 途中で要望が膨らみ、追加の修正を行う
  　→要件定義や設計の段階で曖昧なまま進めたことで、コストと開発期間が大幅に増加した
• 開発が属人化して保守できなくなる
  　→設計書や仕様書の整備がされず、担当者の退職や移動などによりシステムがブラックボックス化した。

今回ご紹介したような失敗は、スクラッチ開発で特に起こりやすい典型例です。
要件定義の明確化や保守性を見据えた設計など、基本を押さえた丁寧な設計をしていくことがトラブル回避につながります。

まとめ

スクラッチ開発は、単に「自由に作れる」開発手法ではなく、目的と要件、体制と将来性をしっかり見据えた判断と設計が求められる選択肢です。

特に重要なのは、「要件定義や設計段階での丁寧なすり合わせ」と「将来を見据えた構造的な設計」です。
ここを曖昧にしてしまうと、後の開発や運用で大きな手戻りが発生し、思わぬコストやトラブルにつながります。

また、著作権の取り扱いにも注意が必要です。
トラブルを避けるためにも、事前に契約内容をしっかり確認し、必要があれば著作権の譲渡条項を明記しておきましょう。

システム開発にわからないことは、開発歴20年以上のSELECTOにご相談ください。